夏休み、僕、不思議な少女

RDG3 レッドデータガール  夏休みの過ごしかた (角川スニーカー文庫)

1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

夏のある日だ。

僕は学校にいた。

僕以外誰もいない教室。

昨日までたくさんの人がいた教室


がらんとしたそこは、終末の世界を思わせる。

元スレ: http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1368882521/
夏休み、僕、不思議な少女

3 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

「まるで世界の終末みたい」

背後で声がした。聞き間違いではない。

首だけで振り向くと、そこにはウチの制服を来た、見慣れぬ少女が立っている。

髪は長く、彼女の細い身体を包み込んでいるように見える。

男「きみ…は?」

女「わたし?」

一瞬、怪訝な顔になる彼女。何か困ったような表情だったが、すぐに元の顔に戻った。

5 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

女「わたしはナツ」

男「ナツさん……ですか」

ナツ「ナツでいい」

男「わ、わかりました…」

ナツ「よろしく」

男「うん、よろしくナツ。ところで、この学校の生徒…だよね」

ナツ「………そうよ」間のある返事。そしてまたあの表情。

ナツ「ところであなたは、何しにここへ来たの?夏休みじゃない。今日は」

6 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

男「部活だよ。部活」

ナツ「ふーん、そう」

男「君も?」

ナツ「いいえ」

男「じゃあ、なんで?」

ナツ「色々あるのよ」

男「いろいろ…?」

ナツ「ええ」

男「そっか」

男「じゃ、俺、そろそろ部活だから」

ナツ「さよなら。頑張ってね」

8 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0




部活が終わり、帰宅しようと駐輪場にやって来た。

そこには、直立不動でどこを見るともなくどこかを見ているナツがいた。

男「ナツ?」

ナツ「あら男くん。思っていたより早かったのね」

男「え?…あ、ああ、うん」いや待て。

男「どうしてここにいるの?」

ナツ「わたしもチャリ通なのよ」

男「いやそうじゃなくて、なんでここで立ってるのって…」

ナツ「あなたを待っていたのよ」

男「はぁ?」

ナツ「ダメなの?」

男「い、いや…ダメでは、ない」

ナツ「ならいいじゃない」そう言って、彼女は自分の物らしいシティバイクにまたがった。

ナツ「一緒に、帰りましょ?」

10 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0




ナツは自転車を漕ぐのが速かった。

男「ナツっ…!ちょ、ちょっと……!待って……!」

長い髪を翻し、ナツが振り向く。

ナツ「なに?」その顔には、一粒の汗も浮かんでいない。

男「ちょっと、速いよ…。漕ぐの……」ぜいぜいと息を切らし、やっとやっとでしゃべる僕とは打って変わり、ナツは涼やかに応えた。

ナツ「あなたが遅いのよ」

男「………」確かに体力に自信はない。

男「…わかったよ」

ナツ「わかればよろしい。じゃ、行きましょ」

スタートから風を切って走るナツ。

そんな体力が、あの細っこい身体のどこにあるのだろうか。

11 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0




住宅街の三叉路で、急にナツは自転車を止めた。

ここには同級生の家も多い。ひょっとしたらナツも、このあたりに住んでいるのだろうか。

ナツ「目をつむれ。10秒だ」

男「は……?」

いきなりすぎて意味が分からない。

目をつむらせて、どうしようというのだろう。

ナツ「いいからさっさと目をつむれ」

目が、つむらないと殺すと言っていた。

男「わ、わかった」

目をつむる。

12 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

1秒…蝉の声がうるさい。

2秒…「ちゃんと、目をつむっている?薄目なんかしてないわよね?」

3秒…「10秒たつまでちゃんとつむってるよ」

4秒…「ならいいわ」

5秒…蝉が相変わらずうるさい。

6秒…空気が、変わったような気がする。

7秒…「ねえ、ナツ?」

8秒…何も聞こえない。

9秒…風が吹いた。

10秒…「ナツ…目を、開けるよ」

13 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

応えはない。

いや、応える人がいない。

ナツがいないのだ。

帰ってしまったのだろうか。

きっとそうだろう。

しかし何故、それだけのために目をつむらせたのだろう。

しかも、音も立てずに去るなんて…。

そうして僕と謎な少女、ナツとの夏休みが始まった。

14 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ID:5Mg3yEnY0

おもろい

15 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

>>14 ありがとう!嬉しいぜイッヒー!


ナツは、知れば知るほど不思議な少女だった。

いや、変と言った方がいいのかもしれない。

僕の部活がある日は、毎日駐輪場で待ってくれている。

いつからいたのと訊いてみたら、さあとはぐらかされた。

別れるときはもちろん、目をつむらされた。

ナツは星が好きらしく、時々僕と一緒に天体観測に言った。

星について喋るときのナツは、とても生き生きとして、輝いていた。

彼女の大好物は、油揚げらしい。
油揚げについて喋るときのナツは、星を語るときよりも生き生きして、輝いていたような気がする。

狐みたいだなと笑ったら、うるさいと言って、そっぽを向かれてしまった。

そんな日々が続いて、夏休みの半ばまで来た、ある日。

16 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

ナツ「祭り?」

男「うん。明日さ、近所の神社で祭りがあるんだ」

ナツ「ふーん」

男「一緒に行かない?」

ナツ「いいわよ、行きましょ」

17 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0




ナツ「お待たせ」

そう言って現れたナツは、綺麗な浴衣姿だった。

薄い青緑色の上に、紺や紫の朝顔が描かれている。

男「綺麗だ…」

ナツ「ジロジロ見るな。早く行こう」

そう言ってナツは、鳥居をくぐった。

ナツ「ねえ、男くん」

男「なに…?」

ナツ「あ、ええと……その…」

男「どうした?」

ナツ「ううん、やっぱりなんでもない」

男「…そっか、ならいいけど」

18 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

俺とナツは、屋台を順繰りに回って行った。

ナツは焼きとうもろこしが気に入ったらしく、3本も平らげてしまった。

口の周りをとうもろこしのカスや、醤油で汚したナツの顔は、子供っぽくて、ちょっと可愛かった。

20 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0




ナツ「ごめんね。足なんかくじいちゃって」

男「気にするな。ナツのせいじゃない」

神社の裏で、俺はナツの足を診ていた。

ナツ「ごめんね。ムード台無しだよね」

あははと乾いた笑い声を出す。

21 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

ナツ「ねえ、お願いがあるの」

男「なに?」

ナツ「あ……あの、その……だ…」

男「だ……?」

ナツ「……だ、抱いて………」

ナツ「ご、ごめんね。こんなときに言うことじゃないよね。変だよね」

ナツ「ごめん……」

ナツ「さみしいの」

ナツ「なんか……なんて言うのかな………あ、えと…えっと…」

ナツ「なんだろ……ええと、どうしよう………わからない………」

ナツ「とにかく……変だと思うけど、お願い」

ナツ「抱いて…」




二人の初めては、神社の裏でだった。

22 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0




ナツ「ごめんね。おぶってもらって」

男「いいよいいよ、気にしないで」

いつもの三叉路。

お互い顔を合わせるのが恥ずかしい。

ナツ「いつもの……」

男「うん」

目をつむる。

ナツ「ごめんね」

ナツ「さよなら」

23 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ID:aOFBg1tr0

なにこれwwwwwww

24 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

>>23 変かなぁ?





次の日。部活が終わり、いつも通り駐輪場に向かう。

だがそこに、ナツはいなかった。

男「あれ…?」

風邪にでもなったのだろうか。

いやまさか、彼女に限ってそれはない…か。

でも次の日も、その次の日も、そのまた次の日も、ナツはいなかった。

僕はナツを捜して、町中を走り回った。

今日も、次の日も、その次の日も、そのまた次の日も……。

でも、ナツは見つからない。

男「ナツ………どこ……?」

29 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ID:aOFBg1tr0

>>24
ごめんとてもいいです
続けてください

27 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

ナツが消えて、十数日がたった。

秋の近づく、少し寒い日だった。

男「ナツ………」

町はもう何回も回った。

学校も住宅街も原っぱも河川敷も商店街も………

28 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ID:5Mg3yEnY0

この不思議なノスタルジックな感じいいよね

30 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

………いや、待て。

どうして忘れていたんだろう。

………神社だ。神社が抜けているじゃないか。

僕は途端に、家を飛び出した。

一目散に神社に向かって走り出す。

ナツは……きっと、そこにいる。

31 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ID:g+MQcNQO0

ナツはセーラー服の黒髪ロングの女の子でイメージ出来た

32 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

神社の階段に、彼女は座っていた。

うつむいた姿勢で、地面を見つめている。

男「ナツ…!」

ナツ「男……くん………」

ナツは顔をあげ、少し驚いた表情をした。

男「よかった……やっと、見つけた…」

ナツ「男くん、ずっと…わたしのこと、捜してくれてたんだね」

男「当たり前だ。ナツは俺の大切な人だから」

ナツ「ありがとう……」

ナツ「でも、もう行かなくちゃ」

男「え……?」

男「どういうこと……だ?」

ナツ「そうだね。本当のことを、話さなくちゃね」

35 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

ナツ「わたしはね、夏なの」

男「……は?」

ナツ「わたしは夏なの。季節の夏」

男「ど…どういうことだ……?」

ナツ「そのまんまの意味だよ。わたしは本当に、夏なの」

ナツ「わたしね、あなたと、少しの間でいいから一緒に過ごしたかった」

男「な、なんで……?」

ナツ「うーーーん…」

ナツ「一目惚れ…ってやつかなぁ」

たははと笑う彼女。

37 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

ナツ「もうすぐ秋がくる。だから、もう行かなくちゃ」

ナツ「男くん、君はきっと幸せになれるよ」

男「待って!」

男「また、いつか、きっと……会えるよね」

ナツ「うん。きっと、いつか」

38 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0




毎年夏がくると、彼女のことを思い出す。

まだ彼女には、会えていない。

でもいつかきっと、会えると信じている。

39 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

じりりりりり

「……電話だ」

「はい…」

「………!」

「………」






「また……会えたね」

おわり

40 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ID:Gsztg8MJ0

曇り空が爆発しそう

41 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

見てくれたみんなありがとー!
もし質問とかあったらできる限り答える!

42 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ID:aOFBg1tr0

>>41
なんで書こうとおもったの?

44 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

>>42 二回くらいアホなSS書いて結構評価高かったから「あれ、もしかして俺才能あるんじゃね?」って調子こいて作った。

45 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ID:aOFBg1tr0

>>44
そうかお疲れ様

46 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ID:5Mg3yEnY0



すばらしいね

47 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ID:K9L4BU8yP

こういうの好きだわ乙

48 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ID:IIIcXbvT0

狐かと思ったら夏だったでござる

次はアキさんで

49 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

>>48 最初は狐って設定でいこうかとおもたけどできなくて夏にした

52 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ID:HEEGmsonO

この文章いい。この雰囲気も大好き。いやホントにこれかなり好き
いいもの読ませてくれてありがとう >>1

59 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ID:HEEGmsonO

いや…1年もここの毒気に曝されても良いもの書けるんだなって思った
ちょっと元気出た

60 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします UgDf06Im0

>>59 そりゃ良かった

ランダム記事紹介

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です